感想・レビュー

ナイツ塙『言い訳』が面白い|感想・レビュー

ナイツ塙『言い訳』が面白い|感想・レビュー

ナイツ塙『言い訳』

たまたまツイッターの広告で見かけたナイツ塙の新書『言い訳』。このタイトルだけを見ると、ナイツ塙の自叙伝的な本か何かかと思いきや、副題が「関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」とある。どうやらお笑い論(漫才論)の本のようだ。M-1の審査員のとき、的確なコメントも印象に残っていたし、関東出身のお笑い好きにとって関西というのは笑いの聖地であり、この副題は心を掴まれる。これはすぐにでも読みたい、と思ったが、残念ながら品切れなのか近所の書店には売っていなかった。Amazonで購入するにも到着が一ヶ月以上先だと言う。発売したばかりなので古本も当然ないし、図書館にも入っていなかった。どうしても欲しかったので、もう少し大きな本屋に行くも、その店にも置いていない。仕方ない、ゆっくり待とう、と諦めていたら、最初に訪れた小さな本屋が、突如三冊も入荷。小さな本屋で、棚の限られた新書シリーズにもかかわらず、同じ本を三冊も置くということは、やはり相当の人気なのかもしれない。さっそく『言い訳』を購入し、家に戻る。しばらく夜の読書の相棒は、ナイツ塙だ、と思っていたのだが、あっという間に読み終わった。面白い、面白すぎる。ぐいぐい引き込まれた。若手芸人が読んでもお笑いの教科書になるし、お笑いファンやM-1をずっと観てきた人にとってもじゅうぶん満足できる内容となっている。個々のコンビの長所も弱点も、繊細さも真摯さも、臆病な一面もロックな格好よさも含んだ、だからお笑いが好きなんだ、と思える要素が全て詰まっている一冊だった。「お笑い」という芸術について考え抜かれ、ほんとうに繊細に考察されている。また、副題にあるような関東芸人(非関西芸人)と関西芸人の比較も面白く、関西の「お笑い」という文化圏に対する深いリスペクトも感じる。

関西の「お笑い」という文化は、とても不思議で興味深いもののように映る。関西の人と話していると、お笑いというもの(ボケとツッコミの掛け合い)が、身体に馴染んでいるのがよく分かる。この本でも指摘されるように、関西や大阪というのはサッカーのブラジルのようなものなのだろう。遊びのように、自然とお笑い的なやりとりが身についている。人それぞれ面白さの度合いはもちろんあるが、基本的な動作が染み付いているように思える。それは、子供の頃からお笑いに接してきた(「え、M-1の翌日に学校で盛り上がらへんの!?」「新喜劇の◯◯さん知らへんの!?」と驚かれる)からというのもあるだろうし、関西弁という言葉の影響も大きいのだろう。世界的に、こういう地域があるのだろうか。明るい、テンションが高い、という気性の話ではなく、その地域の人たちは面白い、その地域の方言は面白い、という場所を「関西」の他に僕は知らない。相当稀有な文化圏だと思う。『言い訳』は、この「関西」という巨大な壁と長年向き合ってきたナイツだからこそ書ける一冊だと思う。そして、読み終わった瞬間、感動のあまりちょっと泣きそうになった(ブックカバーをしていてよかった)。ざっくりと「お笑い」とくくられる世界を、傷つきながら、恐れながら、繊細に観察し、研究して生きてきたのだということが、伝わってきた。だから、感想は、やっぱりこの一言に尽きる。

「ああ、お笑いが好きだな」

ハイスクールマンザイ

ハイスクールマンザイは、2009年から行われている高校生のお笑いチャンピオンを決める大会。よしもとクリエイティブ・エージェンシー主催で、通称「H-1甲子園」。2008年までは「全国高等学校お笑い選手権 M-1甲子園」という大会だったが、2009年にリニューアル。第一回大会の決勝進出者には、現霜降り明星の粗品がいる(「スペード」というコンビで出場)。

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