ハライチ岩井『僕の人生には事件は起きない』|感想・書評
お笑いコンビ・ハライチの岩井勇気が綴る初のエッセイ集。
この『僕の人生には事件は起きない』というユニークなタイトルは、岩井自身の「事件が起きない」経験に由来する。
お笑い芸人と言うと、波乱万丈な人生と巧みな話術をもとに面白いエピソードトークを披露する印象があるが、岩井自身は、自分の生い立ちを話すのが苦手だと言う。
それは、彼の人生が、「全くもって、波乱万丈ではない」からだ。
田舎でも都会でもない埼玉の普通の町で、金持ちでも貧乏でもない普通の団地に住み、学生時代に物凄く暗かったということもなく、モテたわけでもモテなかったわけでもない。
岩井の人生にとって最大の事件は、中学時代、卒業式の前日に当時好きだった女の子に告白して振られた、というエピソードだと言う。
芸人になってからも、割とすぐにテレビに出られるようになったので、下積み時代の貧乏や過激な話もなく、要は、「僕の人生には事件が起きない」というわけだ。
その日常生活を、ちょっとおかしさのある視点で切り取り、日記風エッセイのような感覚で描いている本。
まず文章力があり、まるでラジオのエピソードトークを聴いているような映像に浮かぶ描写力も凄く、また選ばれる話のネタも絶妙に日常的なものとなっている。
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個人的に面白いなと思ったのは、「家の庭を“死の庭”にしてしまうところだった」という章では、家の中にクモが出た、という何気ない話が展開される。
家のなかで殺虫剤を使うのは抵抗があるので、どうやら虫が苦手だというアロマを使おうと購入し、部屋の隅々までアロマを撒いてみると、翌日、なんならちょっとリラックスしているようにさえ見えるクモが壁を這っていた。
こういう表現が、絶妙に緩くて心地よい。
頭を使わずにすいすいとラジオのように読み進めていくことができる。