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コンビ

ウエストランドの悪口漫才とぺこぱの全肯定漫才の時代性



ウエストランドの悪口漫才とぺこぱの全肯定漫才の時代性

2022年のM-1グランプリは、タイタン所属の漫才コンビであるウエストランドが、出番順最後でぎりぎり3位に入り、ファイナルステージに進出。ファイナルステージでは、博多華丸大吉の大吉が、さや香に投票した以外は、全員がウエストランドに入れた。

ウエストランドは、1983年、84年生まれ、岡山県津山市出身の中学、高校の同級生の井口と河本のコンビで、コンビ名の由来は、津山市に所在するショッピングセンター「ウエストランド」。事務所の同期はラブレターズ(吉本だと、東京NSC14期と同期に当たり、ダイタク、ネルソンズ、りんたろー。など)、先輩には爆笑問題がいる。

M-1の過去の決勝進出は、2020年大会に出場し、結果は9位。この際も、2022年大会も、キャッチフレーズは、「小市民怒涛の叫び」。

さて、M-1の2022年大会、ウエストランドのファーストステージの得点は、以下の通り。

山田 大吉 富澤 志らく 礼二 松本 合計
ウエストランド 91(◯) 93 93(◯) 94(◯) 98(◯) 96(◯) 94(◯) 659

軒並み90点を越え、特に志らくと礼二が高得点だった。

ファーストステージの審査員のコメントも絶賛が多く、志らくは、「君たちが勝てば時代が変わる」と発言している。

松本:面白かった。進化している。

志らく:今の時代は人を傷つけてはいけない傾向にある。君たちが勝てば時代が変わる。

山田:大爆笑、バッチリハマった。スッキリした。

塙:あっという間の4分間だった。楽しい。

大吉:ボヤキ漫才なのにつっこみが大人しい。なのに良い。

礼二:聞きやすい

富澤:このネタで笑っている人は同じ気持ちがあるということ。共犯。

なぜ、時代が変わるとまで言わしめたかというと、ウエストランドのネタの内容が、振り切った、生々しく絶妙な毒を吐く「悪口漫才」だったからだ。ファーストステージも、ファイナルステージも、「あるなしクイズ」という切り口で、YouTuberやアイドル、お笑いなど、あらゆるジャンルのあらゆるファンを怒らせそうな毒舌を吐いていく。

ファーストステージ

恋愛映画 : パターン、恋愛映画は全部ワンパターン。

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YouTuber : 結局うざい。再生数に取り憑かれておかしくなっている。警察に捕まり始めてる。

分析するお笑いファン : 視聴者(こちら)に向かって、「やめてくれ」と呼びかける。「佐久間さーん」と叫ぶ。

路上ミュージシャン : 迷惑。他人の曲を我が物顔で歌う。警察に捕まり始めてる。

ファイナルステージ

アイドル : 向上心、なんとしても売れてやるという向上心がある、他人を蹴落としてでも這い上がる、あくなき向上心。急に心霊が見えると言い出したり、急に部屋が汚いと言い出したりする。

田舎 : 引け目、虚無感がある。

お笑い : ネタにメッセージ性を詰めてくるうざいコント。単独ライブのタイトルを不条理なものにする、「晴天なのに傘」。チラシのことを「フライヤー」と言う。

R-1 : 夢がない、希望がない、大会の価値がない。M-1はうざい、アナザーストーリーがうざい、「泣きながらお母さんに電話するな」

大阪 : 自分たちのお笑いが正義だと言う凝り固まった考え。

文字で羅列すると、言葉がだいぶ厳しいように見える。でも実際は、二人の掛け合い、井口の言い方などもあり、漫才として見ると面白いし、こういったウエストランドの悪口漫才が笑いになるということは、多くの人が、内心では(全肯定ではないものの、どこかで)思っていながら言葉にできなかったことを代弁してくれている、という感覚があるからなのだろう。

時代的なもの、誰も傷つけてはいけない、優しくなければいけない、正しくなければいけない、という見えない圧力や空気に対し、意識、無意識は問わず、長年鬱屈していたものがあり、「言ってはいけないことを言ってくれている」という爽快感も、笑いに繋がっていたのではないかと思う。

ウエストランドは、M-1の予選も面白く、すぐに炎上する世の中を風刺したような3回戦のネタがよかった。

M-1グランプリ 2022  3回戦 ウエストランド

前回のM-1のネタは、結構荒削りで、とにかく感情をぶつける、愚痴を一気に吐き出す、という印象だった。でも、今回は、審査員の評にもあるように、進化していたと思う。ネタの内容としてはもちろん、河本の何気ないリアクションが生き生きとして潤滑油にも緩衝材にもなっていた。

この技術、そして、社会の空気。誰かが傷つくかもしれない、だけどもっと本音で話したい、表現したい、という感情が、ウエストランドのネタとなり、笑いとなり、M-1の優勝に繋がったのだろう。一方で、思い出すのが、2019年大会でブレイクした、全肯定漫才のぺこぱ。M-1グランプリでは、3位という成績だった(その年の優勝はミルクボーイ、2位はかまいたち)。

ぺこぱは、「人を傷つけない笑い」として脚光を浴び、このぺこぱの笑いが、現代の傷つきやすい時代を象徴しているように思えた。

真逆に見える、全肯定漫才のぺこぱと、全否定悪口漫才のウエストランド。

でも、その笑いが生まれる土壌自体は、実際には同じだと思う。傷つきやすい繊細な人たちが増え、傷だらけの人たちが増え、そのために、傷つけられた人たちの怒りなどから炎上が起こりやすくなる。そして、だんだんとみんなが静かになっていく。誰も傷つけないように、怒らせないように、「暖かいものだけ」という社会になっていく。

その疲弊した空気を和らげるのがぺこぱ的な全肯定であり、鬱屈した空気の溜まったはけ口としてウエストランド的な笑いが評価される。両者ともが、時代とちょうど重なったのだと思う。

とは言え、ウエストランドは、全方位の悪口(ネタ)を言っているわけで、面白くない、つまらない、許せない、腹が立つ、といった声も少なくないと思う。実際、霜降り明星の粗品や、東京03のファンなどが、あれは粗品のことじゃないか、東京03のことじゃないか、と怒りの声を挙げている。他のジャンルでも、あるいは大会批判をされたスタッフたちや地域の住民のなかでも、同様のことは起きているだろう。

もう少し地下で披露し、鬱憤が溜まっている一部の層のあいだで笑いに昇華しているぶんには快感で純粋に観客がみんな笑えても、全国のあの大舞台で、多くの人の目に触れたら、そのぶんだけ怒りの総量も増える。

だから、Twitterで怒りの声も目にする。この辺りは、ある程度覚悟の上で、ウエストランドはスタンスを崩さずに全方位を狙ったのだろう。

爆笑問題のタイタン所属。

ウエストランドは、「笑いにメッセージ性を込めるな」というような揶揄をしていたが、ウエストランドのネタ自身、だいぶメッセージ性がこもっているように思うし、爆笑問題のような直接的な社会派ではなくても、人間の深層心理の突っ込めない部分に突っ込んでいくようなコンビになっていくのかもしれない。

あるいは、小市民、という底辺の場所から、モテない、ということも武器に、四方八方に噛み付いてきたウエストランドが、M-1王者という「てっぺん」になったことで、次は、さらに大きなものに楯突くようになるのだろうか。

今後のスタイルがどうなっていくか、また、M-1のアナザーストーリーがどういった形になるのかも気になる。

ちなみに、ウエストランドの井口と長い付き合いの三四郎の小宮が、大会前ラジオ『三四郎のオールナイトニッポン0』で何度も半分いじりの流れのなかで「今度のM-1はウエストランドが優勝」と予言していたが、見事に的中した。

実際にウエストランドの優勝を目の当たりにした小宮は、思わず号泣。

三四郎小宮と、ウエストランド井口は、昔からの交友関係にあり、以前、ウエストランドのインタビューでも、一番仲のいい芸人として、小宮の名前を挙げている。

──いちばん仲のいい芸人さんはどなたですか?
井口 僕は三四郎の小宮さんですね。お互い賞レースにも引っかからない、テレビにも全く出ていない頃からずっと遊んでいました。ライブでも、ふたりして騒ぎすぎて先輩からよく怒られてたんです。でも、それがひとりじゃなかったから、よかった。小宮さんが「いや、俺らはこれで絶対に正しいんだ」と言い続けていて、頑張ってこられたので。
河本 いい関係ですねえ。
井口 結果、いま小宮さんが売れているから、ずっと言っていたことは本当に合ってたんだなって思ってます。小宮さんが、「早くウエストランドも売れて、一緒にテレビに出たい。いまテレビに出ていてもひとりじゃつまんないから早く来てくれ」って言ってくれるから、いますぐにでも追いつきたいんです。
河本 うまいもので、僕は三四郎の相田さんとよく一緒にいます。ふたりして静かに飲んでいます。お笑いの話は一切しないし、ボケたりもしない。

出典 : PICT-UP 芸人かく語りき

ハイスクールマンザイ

ハイスクールマンザイは、2009年から行われている高校生のお笑いチャンピオンを決める大会。よしもとクリエイティブ・エージェンシー主催で、通称「H-1甲子園」。2008年までは「全国高等学校お笑い選手権 M-1甲子園」という大会だったが、2009年にリニューアル。第一回大会の決勝進出者には、現霜降り明星の粗品がいる(「スペード」というコンビで出場)。

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